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指紋は語る―“指紋の神様”と呼ばれた男の事件簿

人間の指紋は世界にふたつと存在しない。私たちが自分であることを証明できる指紋は、いってみれば神の贈り物だ(犯罪者にとっては命取りになるが)。指紋の「万人不同」の不思議がわかったのは18世紀の終わり頃で、19世紀初めに分類が始まり、個人識別法が確立されたのは19世紀後半だという。日本の警察機構が捜査手段として指紋を採用したのは1911年だった。 本書には、警視庁の鑑識課に30年間在籍し「指紋の神様」と呼ばれる著者ならではの指紋にまつわる興味深い話が満載されている。1つの指紋には、線が分かれたり合流したり、終わったりする「特徴点」が平均100個ほどある。たとえば、犯罪現場に残された指紋から容疑者を割り出すには、その特徴点を見つけ出し、登録されている指紋(約600万人分)との合致を発見する。ところが、手がかりとなる指紋の大半は断片にすぎない。機械の力を借りるとはいえ、そのほんのわずかな面積から特徴点を見つけるには人間の目とカン、つまり経験に頼るしかない。要するに、気の遠くなるような職人芸なのだ。 三億円強奪事件など、実際に起こった事件での指紋捜査のエピソード、さまざまな状況にある指紋の採取方法の説明など、興味が尽きない。DNA検査といった新しい技術が話題になるが、犯罪捜査には指紋の採取・照合といった100年近い歴史をもつ地味な作業が、今もなお、大きな役割を果しているのだ。

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